子供は身体的に成長段階であり、その構造上の問題から難聴を引き起こしやすい状態にあります。
子供が難聴を発症する原因はさまざまです。当院で難聴の治療をおこなっているお子さんのほとんどが中耳炎による難聴、はしかやムンプス(おたふくかぜ)の後に発症した難聴、あるいは原因不明の難聴(突発性難聴)のいずれかです。
どの世代でも難聴の危険信号が出ている
H28年、文部科学省:学校保健統計調査では、難聴に関係する疾患が過去最多の結果。これは、幼稚園から高校生までほとんどの世代であらわれています。また、難聴を引き起こす背景には、体質の問題、耳に影響を与える呼吸器系の弱さにもあらわれています。
「ぜん息」(表7,図10,図11)
① 平成28年度の「ぜん息」の者の割合は,前年度と比較すると,小学校,中学校及び高等学校ではわずかに減少しているが,幼稚園では増加している。
なお,昭和42年度以降,各学校段階において増加傾向にあったが,平成22~25年度にピークを迎えた後はおおむね減少傾向にある。
② 年齢別(図11)にみると,6歳から12歳の各年齢で3%を超えており,6歳が3.88%と最も高くなっている。
また,11 歳以降は年齢が進むにつれて減少している。
「耳疾患」(表7)
平成28年度の「耳疾患」(中耳炎,内耳炎,外耳炎等)の者の割合は,幼稚園2.83%,小学校6.09%,中学校4.47%,高等学校 2.30%となっており,前年度と
比べると,各学校段階において増加している。
「鼻・副鼻腔疾患」(表7)
平成28年度の「鼻・副鼻腔疾患」(ちくのう症,アレルギー性鼻炎(花粉症等)
等)の者の割合は,幼稚園 3.58%,小学校 12.91%,中学校 11.52%,高等学校9.41%となっており,前年度と比べると各学校段階において増加している。
引用元:H28学校保健統計調査:文部科学省
突発性難聴
子供で突発性難聴等と診断される場合は、成長段階において耳に関係する器官の一部が循環障害を起こしたときに発症します。原因不明といわれていますが、大きな要因のひとつとしてストレスがあります。感受性豊かな子供は引越しや席替えなど環境の変化が精神的なストレスとなり難聴が発症することもあります。また、過剰な運動から内耳の循環障害を起こす場合もあります。
ムンプス難聴
最も回復が難しいとされる難聴の一つがムンプス難聴です。
ムンプスとはおたふく風邪(流行性耳下腺炎)の原因となるムンプス・ウイルスのことです。この病気にかかると顔、特に耳の下がおたふくのように腫れ上がり高熱がでます。
特に3〜9歳に発症しやすく、症状の一つとして難聴が現れることがあります。高度難聴、そして子供が聞こえなくなったことに気づかず発見が遅くなることから回復が難しいとされています。
しかし、鍼灸治療では皮膚からの刺激が患部にまで伝わるため、本人の成長を促すとともに回復能力を高めることができるのです。
ハント症候群
Hunt症候群(ハント症候群)とは
Hunt症候群とは、耳性帯状疱疹ともいわれ、片側の耳介、外耳道およびその周囲、もしくは軟口蓋(口の中)に痛みを伴う水疱(帯状疱疹)と共に、顔面神経麻痺と難聴や耳鳴り、めまいが現れる病気です。
顔面神経麻痺の中では、約14%の割合を占めています。
Hunt症候群は、難聴も顔面神経麻痺も症状が比較的強く出てしまうため、完全には治りにくい病気で、発症から一日でも早く治療にとりかからなければなりません。
Hunt症候群の原因
Hunt症候群の原因は、水疱瘡(水ぼうそう)です。多くは子供の頃にかかった水疱瘡のウイルスであるVZV(水痘帯状疱疹ウイルス)が神経節(神経細胞が集合している場所)にひっそりと住み着き続け、ストレスが溜まったとき、抵抗力が低下したときに再活性します。
中耳炎
子供の耳は成長途中のため大人と比較して小さく、同時に耳管(じかん)と呼ばれる耳と鼻を連絡している通路の傾きが穏やかです。そのため、くしゃみや咳、鼻をかんだとき、あるいは水泳中に鼻水や水が耳に侵入しやすく、中耳炎を発症して難聴の症状が現やすいのです。
子供の難聴、原因の一つは構造上の問題

子供は成長段階ですが、ただ大人より小さいだけではありません。
少しずつ、大人の体になるために、さまざまな器官が変化していきます。特徴的な器官は耳管と呼ばれる、耳と鼻をつないでいる部分です。耳管の役割は、耳の中の圧を一定に保つこと、そして、過剰な音を鼻に貫くためのもの。
ただでさえ大人の耳管より細く短い部分ですが、同時に大人より耳管の角度が浅いことにも原因があります。その影響で、中耳炎になりやすく、難聴の原因となっています。
子供の難聴は健康診断などで発見される場合が多く、発症からかなりの時間が経過しているため回復が難しくなることも少なくありません。普段から親御さんが子供の変化を気にかけてください。
子供の難聴治療について
子供は成長段階であり、精神的、肉体的にも感受性が豊かなため、良くも悪くも様々な刺激に対して素直に反応します。
そのため、治療には軽く皮膚のツボに触れるだけの刺さない小児鍼を使用する治療を行います。
大人と違い鍼を刺さないため刺激が弱すぎると思われるかもしれませんが、子供さんにはこの程度の刺激で十分効果があります。また、その刺激量は年齢や性別、症状の度合いによって微調整します。
難聴の治療は、単に耳だけを治療するのではなく、自律神経の働きを正常になるよう整え、気管支や鼻など呼吸器系の機能を高めることによって、治療だけでなく再発を予防することにもつながります。
子供の治療は難しい?
子供の難聴治療が難しい理由、それは子供だからです。もともと子供の難聴は、ムンプス難聴など早期発見しても治療が困難なことがおおいものです。このことをふまえなくても子供はしっかりしゃべったり、あるいは相手に自分の症状を伝えることができないから治療、完治がより一層難しくなります。
耳が聞こえなくてもほかの事に夢中になり気がつかない、親に話さない場合、その結果、親御さんが難聴に気がつくのが遅れるからです。
ほとんどの場合、健康診断や中耳炎などの痛みを伴う症状を併発したときに初めて発見するケース。この場合、いつ難聴発症したのか遡って診断することが困難であり、発症から数ヶ月も数年も経過してから治療を開始せざるをえない状況に陥りやすいものです。
そして、子供は聴力検査がしっかりできない。音が聞こえたときにボタンを押すという聴力検査というものに対して正確な情報として結果が伴わない場合がしばしばあります。そのため、新生児では脳波で聴力を調べています。
子供の難聴治療で重要なことは、子供の異変に気がつけるかどうかで完治できるかどうか予後がおおきく異なってきます。
しかし、親御さんが気がつけなかった場合でも悔やむことはありません。悔やんでいてもしょうがないといったほうがいいでしょうか、お子さんのこれからの将来を考え、今できる治療を確実におこなっていきましょう。
下のグラフは、実際に鍼灸治療を受けた患者さんの回復度合いです。
2016年現在での、過去数年の治療実績をランダムに抽出してご紹介します。
■5歳未満女性
発症年月日:2009年7月
初診日:2009年9月
治療前検査日:2009年8月
治療中検査日:2009年12月
備考:ムンプス難聴
■5歳未満女性 その後
発症年月日:2009年7月
初診日:2009年9月
治療前検査日:2009年8月
治療中検査日:2010年4月
備考:ムンプス難聴
■9歳女性
発症年月日:2009年7月
初診日:2009年8月
治療前検査日:2009年8月
治療中検査日:2010年1月
備考:突発性難聴
■9歳女性 その後
発症年月日:2009年7月
初診日:2009年8月
治療前検査日:2009年8月
治療中検査日:2010年4月
備考:突発性難聴
■10歳女性
発症年月日:2015年11月
初診日:2016年2月10日
治療前検査日:2016年1月
治療中検査日:2016年7月
備考:突発性難聴
■10代女性
発症年月日:2009年5月
初診日:2009年7月
治療前検査日:2009年7月
治療中検査日:2009年8月
備考:突発性難聴