自律神経失調症とは、自律神経の働きが乱れ、心や体に不調があらわれた状態のことです。
症状としては、吐き気、めまい、肩こり、頭痛、多汗、全身倦怠感、手足のしびれ、動悸、不整脈、不眠、頻尿など様々で、人によって症状が違います。独立した病気としては存在していませんが、一般的に、問診、除外診断、自律神経機能検査、心理テストの検査をおこなった結果
- 全身の倦怠感やめまいなどの不定愁訴がある
- 器質的疾患(病変)や精神障害がない
- 自律神経機能検査で異常がみとめられる
の3つが該当した場合、自律神経失調症と診断されます。
原因
自律神経が乱れる原因としては、肉体的なストレスと精神的なストレスがありますが、さらに細かく分けると以下の7つが主な原因となります。
自律神経が乱れる要因
不規則な生活リズム
慢性的な寝不足や夜勤、夜遊びなどによる昼夜逆転、不規則な食生活など不摂生を続けていると、生体リズムが狂って自律神経のバランスを乱す原因になります。
過度なストレス
受験や、友達との人間関係、仕事のプレッシャーなどの悩みや不安による精神的なストレス、過労、事故、さらには仕事場の騒音や、パソコン、スマホ画面の光、エアコンなどの温度なども身体的なストレスとなって自律神経の乱れの主な原因になります。そのストレスが過剰になると、交感神経の働きが過剰になり自律神経のバランスが乱れます。
ストレスに弱い体質
子供の頃から胃腸が弱い、環境がかわると眠れないなど、生まれつき自律神経が過敏な人もいます。また、思春期や更年期、身体が弱っている時は自律神経のバランスが乱れやすい傾向にあります。
ストレスに弱い性格
頼まれたことを断れない性格、感情処理が下手で我慢してしまう性格、気持ちの切り替えができない、人の評価を気にしすぎる、人と信頼関係を結ぶのが苦手、依存心が強いなど、ストレスへの抵抗力が弱い傾向にある性格の人は自律神経失調症になりやすいです。
環境の変化
進級、進学、転勤など社会環境の変化、人間関係や仕事などの環境の変化に対して適応できない人、過剰適応してしまう人が該当します。10年以上前と比較すると、適応障害のような形で症状があらわれる人が急増しています。
女性ホルモンの影響
女性は初潮を迎えてから閉経した後も含め一生を通じてホルモンのリズムが変化しつづけ、この変化が自律神経の働きに影響を与えます。そのため、思春期、更年期、老年期だけでなく、生理中など生理周期の中だけでも精神的、肉体的不調を訴えます。また、同様のことが、男性にも起こるとされています。
病気による自律神経の乱れ
自律神経が乱れる要因として、自律神経失調症以外の病気が潜んでいる場合があります。その場合、病気を根本的に治療、もしくは症状改善させなければ自律神経の乱れは戻りません。例えば、女性ホルモンのバランスが変化する更年期障害、パーキンソン病、高血圧、糖尿病、摂食障害などの末梢神経障害があらわれるものです。このような病気、症状では、自律神経失調症としてではなく、自律神経症状として身体的症状があらわれます。例えば、起立性低血圧(立ちくらみ)や冷え、のぼせ、手足のしびれなどがあげられます。近年では、子供の起立性調整障害も問題となってきています。この病気は、主に思春期の子供に発症する自律神経失調症と考えられています。このような症状に対しても鍼灸治療は適応しますので一度ご相談ください。
自律神経失調症の4つのタイプ
自律神経失調症には、前述の乱れる原因を含め、大きく4つのタイプに分類されます。
本態性自律神経失調症
ストレスに弱い体質、生まれつき持っている体質に原因があります。自律神経の調節機能が乱れやすい体質のタイプです。
虚弱体質の人や、低血圧の人、発達障害に多く見られます。病院で検査をしても特に異常が見つかりません。日常生活のストレスもあまり関係しません。
本態性型は、体質そのものに原因があります。体質改善をするためは、鍼灸治療しながら、食事、睡眠、運動、休息などの生活習慣を見直していく必要があります。
神経症型自律神経失調症
ストレスに弱い性格、心理的な影響が強いタイプです。自分の体調の変化に非常に敏感で、少しの精神的ストレスでも体調をくずしてしまいます。感受性が過敏なため、精神状態に左右されやすいタイプです。感情の変化が体に症状として現れます。
心身症型自律神経失調症
日常生活のストレスが原因です。心と体の両面に症状があらわれます。自律神経失調症の中で、もっとも多いタイプです。几帳面で責任感があり、努力家のまじめな性格の人がなりやすいです。
抑うつ型自律神経失調症
心身症型自律神経失調症がさらに進行した重度のタイプになります。
やる気が起きない、気分がどんより沈んでいる、といった「うつ症状」が見られます。
肉体的にも、頭痛、微熱、だるさ、食欲がない、不眠などの症状があらわれます。身体の症状の陰に精神的なうつも隠れていますが、病院では、身体症状を改善するための鎮痛剤、精神安定剤など対症療法しか受けられず、長い間、不快な症状に苦しむ人が多いようです。几帳面な性格や、完全主義のタイプが陥りやすいです。
自律神経失調症の診断方法
患者さんに対して、自律神経失調症と診断するまでには、似たような病気、特に重篤な病気を除外しながら最終的に自律神経失調症にたどり着かなければなりません。そのため、少なくてもいくつかの病気、多い人では20個ほどの病気を想定しながら、順番に除外していきます。患者さんの症状によっては、初診時に確実に診断できないときもあります。たとえ、病院で自律神経失調症と診断されてから鍼灸院へ来院されたとしても、鵜呑みにせず、担当する鍼灸師が納得できるまで治療前に確認します。
問診
はじめの問診では、患者さん自身が気になる症状、気になるときの状況等をお聞きし、その他、こちらから本人が自覚していなく、こちらから質問した時に「そういえば」と思い出すような症状も見逃さないようにします。同時に、糖尿病、脳梗塞、パーキンソン病など自覚している病気もお聞きし、今の症状との関連性も確認します。
除外診断
自律神経失調症と診断するためには、問診でお聞きした病気の他に、更年期障害、バセドウ病(甲状腺機能亢進症)、心身症、過敏性腸症候群、うつ病、狭心症、片頭痛、起立性調節障害など、似たような症状で考えられる病気すべてを除外していきます。そのために、病院での検査結果をお持ちの患者さんには確認させていただく場合もあります。
機能検査
除外診断の中でも、自律神経症状があらわれているもので、自律神経自体に問題のある病気があります。起立性調節障害や、迷走神経障害(ケガや手術の後遺症で自律神経の枝に影響が出たもの)が疑われるものがあります。当院での、症例として、声がかすれて出ない嗄声(させい)という症状、立ちくらみや失神、下痢など、いくつかの症状を訴え自律神経失調症の診断を受け当院へ来院されたケースもあります。
自律神経そのものの機能を調べる検査として病院では、CVRR(心電図R-R感覚変動係数)、HUT(立位心電図)、HRV(心拍変動検査:24時間測定)、シュロング起立試験(能動的起立試験)、鳥肌反応検査、指尖容積脈波などのうちどれか一つをおこなうことがあります。
起立性低血圧だけの疑いを検査するのであれば、シュロング起立試験、HUT(head up tilt)どちらかをおこない、シュロングのほうが血圧の低下幅が大きく、判断しやすいです。また、自律神経失調症を疑う場合、CVRRもしくはHRVの検査をすることが多いです。
心理テスト
症状の背後にある心理的要因を調べていきます。自律神経失調症の多くは、心理的な要因が深くかかわっていますので、その心理的要因を探ることが、診断や治療において重要となってきます。
心理テストには、神経症傾向を見るCMIやTMI、ストレス度を見るSCLやストレス耐性を見るSTCL、性格的特性を見るY-G性格検査、不安の度合いを見るMAS、うつ状態の度合いを見るSDS、精神・心理・人格を多面的に評価するMMPIなどがあり、基本は面接や問診ですが、同時に質問表に記入してもらうケースがほとんどです。質問表には、体の状態だけでなく心理状態についても記入します。
これらの検査は、TMIでは体の症状について43の質問、精神的な症状について51の質問があり、CMIでは、身体的自覚症状に関する質問132項目、精神的自覚症状に関する質問51項目、既往症を問う質問15項目、行動や習慣に関する質問6項目、合計204項目もあります。
すべて一度におこなうのは、自律神経が乱れている患者さんにとって苦痛、不可能な場合もあります。
当院では、問診の中で少しずつ性格や状態を確認しながら鍼灸治療をおこない、今ある症状がとれるだけで心理面も安定するケースもあります。それでも根強く残存する症状について、場合によってしっかりとしたテストをおこなってもらうこともあります。
検査
当院の鍼灸治療は、心電図(バイオパック:心拍数測定器)を使用しながら鍼灸治療をおこない、心拍の変化を確認することで自律神経機能が回復したことを確認できる技術を応用して臨床の場で生かしています。それは、東洋医学である鍼灸治療の診断方法が、心拍だけではなく、声の張り、毛穴の開き、皮膚の緊張、など体の変化から読み取り、状態に合わせて治療することができるからです。
今の状態がどのレベルなのか?前回の治療の時とどんな体調の変化があるのか?他覚的に判断し、患者さんの自覚症状と照らし合わせながらご説明します。患者さんが納得して安心することでより治療効果が高まります。